魔術・科学
62.ヨハネス・トリテミウス『ポリグラフィア』(パリ、1561年)

 

Johannes Trithemius, Polygraphie syoshi.jpg (1610 バイト)

   ドイツ、スポンハイムの修道院長であったトリテミウスは、晩年はヴュルツブルクの聖ヤコブ修道院長となったが、そこで医学者で哲学者のパラケルスス(1493-1541)を教えている。パラケルススがそうであったように、トリテミウスの著作も、今日的視座に立つならば科学と魔術の間を揺れ動いているといえる。1499年頃執筆中であった未完の暗号論『ステガノグラフィア』(Steganographia)では、何百種類の暗号について詳述するだけではなく、どんなに教養のない人物でもラテン語やギリシャ語などを完璧に学べる方法や以心伝心の術について記す予定であった。『ステガノグラフィア』は第3巻の途中で中断したが、同じく暗号を扱った『ポリグラフィア』は暗号学の最初の書物として、おそらくはその直後に完成した。トリテミウスは、他に永遠に燃え続ける光を生む方法に関する未刊行写本(オックスフォード、ボドレー図書館所蔵MS Ashmole 1408)も残しているが、そうした研究内容やそれをめぐる誤解を招く発言のために、魔術的実験を試みているのではないかという疑惑をかけられたこともある。

   『ポリグラフィア』の初版は1518年に刊行され、1550年には第2版が出ている。著者自身が考案した暗号とともに当時使用されていた数多くの暗号を解説している本書は、フランス語やドイツ語にも訳されて広く人気を博した一方で、暗号解読を容易にしてしまったかどで各国の宮廷からは非難を受けた。本書はガブリエル・ド・コランジュ(Gabriel de Collange)によるフランス語訳だが、トリメテウス自身による注解、'Clavis Polygraphia'、さらにコランジュが12枚の回転円盤[2]を用いてトリメテウスの暗号体系を解説した部分('Tables et figures planispheriques')が加えられている。タイトルページ[1]は、シャルル9世の百合の花の紋章と出版者のJaques Kerverの標章とを上下に配して、さまざまな計測器具を組み合わせた木版の飾り枠をほどこしている。

 

     

 

  home_j.jpg (7036 バイト) sakuin.jpg (6924 バイト) tyosya.jpg (7414 バイト) syudai.jpg (7312 バイト) syuppan.jpg (7687 バイト) Englishpage_botin.jpg (7141 バイト)