エンブレム・ブック
28.ディエゴ・デ・サアベドラ・ファハルド『キリスト教君主の理念』

(アムステルダム、1651年)

 

Diego de Saavedra Fajardo, Idea principis Christiano-politici syoshi.jpg (1610 バイト)

   スペインの代表的なエンブレム・ブックのひとつのラテン語版。スペイン語の初版は1640年にミュンヘンで刊行されたが、スペイン語で書かれたエンブレム・ブックのなかで最もポピュラーな一冊となった。ラテン語(初版は1649年)をはじめ、各国語にも矢継ぎ早に訳されて人気を博した。慶應義塾図書館にはフランス語版も所蔵されている(Le Prince chrestien et politique, 2 vols. Paris, 1668)

   アルヘシラスに生まれてサラマンカで法学を修めたファハルドは、1610年に外交官としてイタリアに赴いたのを皮切りに、フェリーペ3世と4世のもとで外交上の要職を歴任した。本書は君主にキリスト教的な帝王学を教える「為政者の鑑」の伝統にのっとり、君主がそなえているべき政治的手腕と知識をエンブレムを用いて解説している。その内容は具体的な政治や外交のアドバイスから、君主としての振る舞いや教養などの個人的な事柄にも及び、君主は、統治のうえでしばしば現実的対応を迫られることはあっても、キリスト教的徳目をその根底に据えて行動すべきであるという信念に基づいている。マキアヴェッリ的な現実主義にはむしろ反対する立場をとっている。

   教会の鐘 [1]は、君主の責任の重大さを教えるエンブレムである。 鐘はその音色によって材質の良し悪しやヒビの有無などが街中に知れ渡る。同様に、君主は国家の時を知らせる鐘であり、その発言はすべてに影響を与え動かすのだから、発言において慎重であらねばならない。

   また、コンパスのエンブレム[2]では書記官の役職が説明される。書記官は君主の意志を遂行する右手であり、聴聞僧が神と君主との間を取り持つように、書記官は人民と君主の仲介をする。書記官は与えられた素案にしたがって図面を引くが、図面が不正確では建物は建ち上がらない。書記官のペンは、むしろコンパスに似ている。それは書き留めるだけでなく、決定を測ったり、相応しい時機を見たりするからである。

 

     

 

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