エンブレム・ブック | |||
27.ジャン・プジェ・ド・ラ・セール『媚びへつらわぬ鏡』(ロンドン、1639年) | |||
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Jean Puget de la Serre, The Mirrour Which Flatters Not | ||
著者のジャン・プジェ・ド・ラ・セールはフランスの劇作家で、死や無常に関する瞑想的著作が多い。本書は1632年にブリュッセルで刊行された原書の、Thomas Caryによる英訳の初版である。内容は死と人生の無常に関する随想で、4枚の挿絵を解説するかたちをとっている。挿絵には寓意的要素は少なく、付随する詩文は挿絵をそのまま説明して、教訓的解説を引き出している。 扉絵[1]では、王者にふさわしい緋衣を腐敗した肉体に纏った「死」が王笏と鏡を手に持ち、現世を踏みしだいて君臨している。鏡は人間の本当の姿を映し、人間は塵芥に過ぎないという事実を認識させるためのもので、「虚栄」の擬人像がしばしば手にしているうぬぼれの鏡とは異なる。死とは、砂時計の砂が落ちるように素早く過ぎゆく人生が、突然天国か地獄かという永遠の分岐点を迎える節目に他ならない。さらに詳しく知りたければ扉絵ではなく、本文を見よと忠告している。 図版[2]では、犬儒派のディオゲネスが若きアレキサンドロス大王に、「骨となり果てれば王者も平民も変わりはない」と教えている。シェイクスピアの『ハムレット』(V.i)にある「アレキサンドロス大王が土に帰って酒樽の栓となる」という内容の台詞を彷彿とさせるような場面である。他の図版も、死の勝利や人間は土塊にすぎないというテーマを扱っている。 |
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