エンブレム・ブック
25.ヤコーブ・カッツ『プロテウス、あるいはエンブレムに形を変えた愛の図像』

(ロッテルダム、1627年)

 

Jacob Cats, Proteus syoshi.jpg (1610 バイト)

   本書はそれぞれ独立したタイトルページを有する4作品の合冊であるが、本書が初版であり、各部分がそれ以前に単独で刊行されたという形跡はない。だが、Praz, Landwehr, de Vriesの書誌に記述されている他の初版には、各部分の順番が異なるものがある。慶應義塾図書館所蔵本は、『プロテウス』、「カッツのエンブレムの英訳」('Emblemata D. Iacobi Catsii, in linguam Anglicam transfusa')、『教訓的および日常的エンブレム集』(Emblemata moralia et aeconomica)、『辛い愛の嘆きの画廊』(Galathee ofte Harder minne-klachte)の順番に綴じられている。カッツは、1618年にミッデルブルフで『乙女の愛』(Maechden-plicht)と、本書の前身である『シーレーヌス・アルチビアディーズ』(Silenus Alcibiadis)と題された2冊のエンブレム・ブックを刊行しているが、本書に登場するエンブレムにはそれらを再利用したものが多い。

   『乙女の愛』はアンナとフィリスという二人の乙女の対話形式で、恋愛における知恵を主題としたエンブレム・ブックだが、『シーレーヌス』は、同じエンブレムを用いながらも宗教的瞑想を主題としている。本書は『シーレーヌス』に基づいているが、『乙女の愛』の詩文だけは、別刷りで後半に挿入されている。また、初版から英語訳が含まれているのは、国際的な読者層を意図したエンブレム・ブックの特徴である。図[1]の挿絵には、「入り込まぬか、つき破るか」という題辞が添えられている。ヴィーナスの網に引っかかるものは弱い愚かな恋人だけで、勇気ある者は入り込まぬか、突きぬけて行くのである。

   図[2]は、「あなたの光が人間に輝くように」という題辞を有し、キューピッドが船を運命の海から呼び戻しているエンブレムである。このキューピッドは、世俗の愛を取り結ぶ盲目のキューピッドではなく、聖なる愛を見定めることができる、目の見える「真実の」キューピッドである。灯台のあかりは船に港が近いことを教えるが、港が近づいてくるわけではなく、船は自力で入港する必要がある。『乙女の愛』では、そのように娘たちは慎重に結婚にむかって進むべきで、積極的でありすぎてはいけないと言われているが、本書では『シーレーヌス』と同様に、船を導く光は美徳、模範の象徴であると解釈されている。

 

     

 

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