エンブレム・ブック
12.アキーレ・ボッキ『象徴的探求の宇宙』(ボローニャ、1574年)

 

Achille Bocchi, Symbolicarum quaestionum syoshi.jpg (1610 バイト)

   古典・聖書学者で、故郷のボローニャに自分の名を冠したアカデミアを創設した人文学者アキ−レ・ボッキによる唯一のエンブレム・ブック(初版は1555年)で、慶應義塾図書館所蔵の第2版は『絵画の見かた』や『風景画論』などの著作で世界的に有名なイギリスの美術史家、ケネス・クラーク卿(Kenneth Clarke)の旧蔵書である。本書に登場する151点の銅版画は、当時ボローニャを中心に広く活躍していたジュリオ・ボナソーネ(Giulio Bonasone)が製作し、さらにこの第2版では、画家のアゴスティーノ・カラッチ(Agostino Caracci)も製作に携わっている。本書は、同時代のボローニャを中心に活躍していた画家たちの神話画や寓意画にモチーフを提供し、その影響はカラヴァッジョや現世の無常を寓意的に描いた北方の「ヴァニタス画」のモチーフにも及んでいる。また近代以降でも、ウィリアム・ブレイクやサミュエル・パーマーなど、イギリスのロマン派の版画にも影響を与えたが、クラーク卿により、同じイタリアのシュールレアリズムの画家、ジョルジョ・デ・キリコの絵画にも主題を提供していることが指摘されている。

   図[1]のエンブレムのテーマは知恵と修辞の結合だが、この5世紀のマルティアーヌス・カペッラ以来のテーマを、ボッキはヘルメスとアテーネーが結合してヘルマテーナとなることで表現した。二人の神々が腕を組むこの図像はボッキのアカデミアのインプレーザとなり、実際の建物のファサードに用いられた。題辞は、「謙虚が知恵を、学習が雄弁を完成させ、ひとつの神が幸福を完璧なものとする」と記されている。このエンブレムは、雄弁の神ヘルメスの敏速さと知恵の女神アテーネーの堅実さという相反する特質を組み合わせるように諭すものである。そのことは、二人の間に描かれているキューピッドが「このように怪物を手なずける」という題辞とともに、レビヤタンを連想させる怪物の口に鼻輪と手綱をかけて、過度の雄弁をたしなめていることからも推測できる。この図像は、ルネサンス期の神話画の重要な種本となったヴィンツェンツォ・カルターリ(Vincenzo Cartari)の『古代の神々の像』(1556)の典拠となったが、カルターリはヘルメスとアテーネーが肩を組むという身振りで、結合をより端的に表現している。

   「栄光は美徳の影である」という題辞のエンブレム[2]では、トロフィーを手にした羽の生えた「栄光」が美徳を体現するアテーネーに付き従っている。美徳の重要性を主題とした教訓的なエンブレムであるが、栄光は影にすぎぬと否定しているわけではない。このエンブレムはオッタヴィオ・ファルネーゼ(Ottavio Farnese)に献じられているが、オッタビオの栄光は、父法王パオロ3世の美徳に続くものという意味も込められている。

 

その他の画像 : [3]  [4]

 

『グーテンベルク』, 34

 

     

 

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