エンブレム・ブック
8. ジル・コロゼ『ヘカトングラフィー』(パリ、1540年)

 

Gilles Corrozet, Hecatomgraphie syoshi.jpg (1610 バイト)

  パリの書籍商、ジル・コロゼによるエンブレム・ブックの初版である。コロゼは本書をはじめとする数点のエンブレム・ブック、挿し絵入りイソップ寓話集、旧約聖書に基づいた絵物語、紋章図鑑など、挿絵をふんだんに使った大衆向けの教訓的かつ実用的な書物を多数編纂している。これらの書物の多くを実際に印刷したのは、当時挿絵入り本を数多く印刷し、フランス語の最初のエンブレム・ブックも刊行していたドニ・ジャノ(Denys Janot)である。コロゼは、ジャノが蓄積した版木を活用して、それに詩をつけることで自分のエンブレム・ブックを刊行したが、『ヘカトングラフィー』はあきらかに成功したらしく、初版刊行後8年間のうちに4回も版を重ねている。

   本書が広範な読者を意識していたことは、実際のエンブレムを見るとよくわかる。図[1]はデューラーの銅版画でも有名な、復讐の女神「ネメシス」である。左手のシュロの葉は、雨風をまともに受けてもまっすぐに立つというシュロの強靱さによって力強さを表し、右手の轡は考えと発言両方において節度を守ることを教えている。裸の姿は、時の経過により何が失われようとも、正当なる復讐は必ずなされることを示す。こうした図像の細部は対話形式の詩文によって平易に解説されているが、対話形式は中世以来、神学や哲学の初学者向け入門書にしばしば使われた文体である。また、イソップなどのポピュラーな寓話が頻繁に利用されている点も、全体的な平明さを作りだしている。夜空の観察に気を取られて穴に落ちた学者の話[2]は中世においてもよく知られていたが、このエンブレムから引き出される教訓も、人間は神の領域に踏み込まず、汝自身を知ることをまず第一に心がけるべきであるという、中世以来しばしば言われてきたものである。

 

その他の画像 : [3]

 

『鵞ペンから印刷機へ』, 77

 

     

 

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