1. 西洋哲学倫理学史
  2. 諸特殊哲学
  3. 倫理学
  4. 美学美術史学
  5. 社会学
  6. 社会心理学
    (およびコミュニケーション研究)
  7. 文化人類学
  8. 日本研究(民俗学)
  9. 心理学
  10. 教育学
  11. 人間科学

この文献目録の作成にあたってわれわれがとった方針は二つある.第一は,現在,倫理学専攻に設置されている科目名を主たる分類項目にするということである.これはあくまで便宜的なものである.各項目の選定者・文責者が,毎年のその授業の担当者ということではない.したがって,また,毎年の当該授業において,ここに列挙されているもの全てが参考文献とされるわけではない.第二は,項目ごとに「基本的文献のみ」を挙げるということである.「基本文献のみ」であるから,これだけを読めばよいというものではない.かといって,挙げられている書物を全部読破しなければならないというものでもない.各々の分野を勉強し始めるにあたって,まず,ここに挙げられている書物から読み始めてはどうかというアドバイスであり,学生諸君が選択する際に参考となるようにコメントを付してある.さらに進んで勉強したい人は,直接教員に相談に来られたい.学生各自の関心に応じた書物を適切に指示することが,読書指導,研究指導の最良のかたちであると我々は考えるので,文献の列挙は基本的なもののみに絞ったのである.

各項目末尾のカッコ内の人名は選定者であり文責者である.「日本倫理思想」の項を担当していただいた佐藤正英講師(東京大学教授),「東洋倫理思想」の項を担当していただいた土田健次郎講師(早稲田大学教授),「倫理学の基礎」の項で英米倫理学に関して御協力頂いた成田和信教授(塾商学部),「倫理学の課題 Ⅲ(社会と倫理)」の項でビジネス・エシックスに関して御協力頂いた梅津光弘准教授(塾商学部)に対し,この場を借りてお礼を申し上げたい.

1 倫理学概論

  1. 小倉志祥編『倫理学概論』(以文社,1972年)
  2. 藤沢令夫ほか『倫理とは』<岩波講座 転換期における人間8>(岩波書店,1989年)
  3. 和辻哲郎『人間の学としての倫理学』(岩波全書,1934年)
  4. 小泉仰『倫理学』(慶応通信,1989年)
  5. 大谷愛人/池上明哉/小松光彦『現代倫理学の諸問題』(慶応通信,1978年)

1は伝統的倫理学(道徳哲学)の概説書として標準的なものである.だが今日,社会の急激な変化に伴い道徳規範が無力化し,人間生活の至るところで多くの倫理的問題が噴出するなかで,倫理とは何か,倫理学は可能かということが改めて問い直されている.2はこのような問題意識に立つ入門的なものとして好適である.3は古典的著作であり,やや難解ではあるが,倫理学と存在を当為の二分法を超えた「人間存在の学」として再定義しようとするものであり,上述の問題状況に照らしてみても今日的意識を持つものと思う.4・5は,身近な教員によって執筆されたものを参考までに挙げた. (池上・小松)

2 西洋哲学倫理学史(倫理学に関するもの)

  1. モルフォー/ラファン『哲学読本3 実践哲学――実践と諸目的』(野田又夫ほか訳,紀伊国屋書店,1980年)
  2. マッキンタイアー『西洋倫理学史』(深谷昭三訳,以文社.1986年),同『西洋倫理思想史 』(上・下,管豊彦ほか訳,九州大学出版会,1985~86年)
  3. 小熊勢記/川島秀一/深谷昭三『西洋倫理思想の形成』(Ⅰ・Ⅱ,晃洋書房,1985年)
  4. 今道友信『現代の思想――二十世紀後半の哲学』(放送大学教材,1985年)

1は倫理学の主要テーマに関する記述を思想家の原典から抜粋し,解説を加えたもの.2は標準的な通史で,2種の翻訳がある.3も通史だが,Ⅱをすべて20世紀に充てている.4は20世紀後半の思想が網羅されており,鳥瞰に便利である.(谷)

3 倫理学の基礎

  1. プラトン『餐宴』(鈴木照雄訳,『世界の名著6 プラトン』中央公論社,1966年,所収)
  2. プラトン『ソクラテスの弁明』(田中美知太郎訳,『世界の名著6 プラトン』中央公論社,1966年,所収)
  3. プラトン『クリトン』(田中美知太郎訳,『世界の名著6 プラトン』中央公論社,1966年,所収)
  4. プラトン『パイドン』(池田美恵訳,『世界の名著6 プラトン』中央公論社,1966年,所収)
  5. アリストテレス『ニコマコス倫理学 』(上・下,高田三郎訳,岩波文庫,1971年)
  6. マルクス・アウレーリウス『自省録』(神谷美恵子訳,岩波文庫,1956年)
  7. セネカ『人生の短さについて』(茂手木元蔵訳,岩波文庫,1982年)
  8. アウグスチヌス『告白』(上・下,服部英次郎訳,岩波文庫,1976年)
  9. ルター『キリスト者の自由』(石原謙訳,岩波文庫,1976年)
  10. デカルト『情念論』(野田又夫訳,『世界の名著22 デカルト』中央公論社,1967年,所収)
  11. パスカル『パンセ』(前田陽一/由木康訳,『世界の名著24 パスカル』中央公論社,1966年,所収)
  12. スピノザ『エティカ』(工藤喜作/斉藤博訳,『世界の名著25 スピノザ ライプニッツ』中央公論社,1969年,所収)
  13. ヒューム『人性論』(土岐邦夫訳,『世界の名著27 ロック ヒューム』中央公論社,1968年,所ルソー『エミール』(今野一雄訳,岩波文庫,1972年)
  14. 1960年),同『訳注 道徳形而上学の基礎づけ』(宇都宮芳明訳注,以文社,1989年)
  15. ヘーゲル『哲学入門』(武市健人訳,岩波文庫,1952年)
  16. マルクス『経済学=哲学手稿』(三浦和男訳,青木文庫,1962年)
  17. キルケゴール『愛について』(芳賀檀訳,新潮文庫,1955年)
  18. キルケゴール『死に至る病』(桝田啓之郎訳,『世界の名著40 キルケゴール』中央公論社,1966年,所収)
  19. ニーチェ『ツァラトゥストラ』(手塚富雄訳,『世界の名著46 ニーチェ』中央公論社, 1966年,所収)
  20. ジンメル『生の哲学』(茅野良男訳,『ジンメル著作集9』白水社,1977年)
  21. ウェーバー『職業としての政治』(脇圭平訳,岩波文庫,1980年)
  22. シェーラー『人間における永遠なるもの』(上:小倉貞秀訳,下:亀井裕ほか訳,『シェーラー著作集6・7』白水社,1977年)
  23. ハルトマン『哲学入門』(石川文康ほか訳,晃洋書房,1982年)
  24. ブーバー『我と汝 対話』(植田重雄訳,岩波文庫,1979年)
  25. ハイデガー『ヒューマニズムについて』(佐々木一義訳,『ハイデガー選集23』理想社,1974年)
  26. ヤスパース『哲学とは何か』(林田新二訳,白水社,1986年)
  27. ブロッホ『哲学の根本問題』(竹内豊治訳,法政大学出版局,1972年)
  28. ボルノー『実存主義克服の問題』(須田秀幸訳,未来社,1969年)
  29. ベルクソン『道徳と宗教の二源泉』(森田美都夫訳,『世界の名著53 ベルクソン』中央公論社,1969年,所収)
  30. マルセル『旅する人間』(山崎康一郎ほか訳、『マルセル著作集4』春秋社,1968年)
  31. ティヤール・ド・シャルダン『宇宙のなかの神の場』(三雲夏生訳,春秋社,1968年)
  32. サルトル『実存主義とは何か』(伊吹武彦訳,『サルトル全集13』人文書院,1955年)
  33. フロイト『自我論』(井村垣郎訳,『フロイト選集』日本教文社,1970年)
  34. フロム『人間における自由』(谷口隆之助/早坂奏次郎訳,東京創元社,1955年)
  35. フロム『愛するということ』(鈴木晶訳,紀伊国屋書店,1991年)
  36. エリクソン『洞察と責任』(鑪幹八郎訳,誠信書房,1971年)
  37. マスロー『完全なる人間――魂のめざすもの』(上田吉一訳,誠信書房,1964年)
  38. フランクル『夜と霧』(霜山徳爾訳,みすず書房,1961年)
  39. フランクル『死と愛』(霜山徳爾訳,みすず書房,1957年)
  40. ミル『功利主義論』(井原吉之助訳,『世界の名著38 ベンサム ミル』中央公論社,1955年,所収)
  41. ムーア『倫理学原理』(深田昭三訳,三和書房,1973年)
  42. ラッセル『ヒューマン・ソサエティー』(勝部真長/長谷川鉱平訳,玉川大学出版部,1981年)
  43. ヘア『道徳の言語』(小泉仰ほか訳,勁草書房,1982年)
  44. ハーマン『哲学的倫理学叙説』(大庭健/宇佐美公正訳,産業図書,1988年)
  45. ウィリアムズ『生き方について哲学は何が言えるか』(森際康友/下川潔訳,産業図書,1993年)
  46. マッキー『倫理学』(加藤尚武監訳,晢書房,1990年)
  47. パーフィット『理由と人格』(森村進訳,勁草書房,1998年)
  48. マッキンタイア『美徳なき時代』(篠崎榮訳,みすず書房,1993年)

西洋倫理思想史に登場する代表的思想家の著作の中から,近づきやすいと思われるものを選んだ.挙げられている著作のすべてが,当該の思想家の主著というわけではない.内容・分量・訳文・入手のしやすさなど,様々な点から判断して,近づきやすいと思われるものである.点数は一人につき原則として二冊以内とした.また,狭義の「倫理学者」だけではなく,倫理的世界についての洞察をもった隣接領域の学者も,「倫理思想家」として,その著作を挙げてある.(西村・石井・成田)

4 倫理学の課題

I (自然と倫理:環境倫理学)

1の著者は,「エコ・エティカ」という分野の名付け親であり,国際的パイオニアである.環境倫理学の領域における諸問題の概観は,2によって得られる.3は環境倫理学の諸問題に関して,夫々の問題についての代表的なアメリカの論文を集めたリーディングスである.4では西欧の伝統的自然観が概括されている.5・6では,それぞれの倫理学的・哲学的立場から,検討が加えられている(両書には生命倫理学に関わる論文も含まれている).7では進化論と生態学との関連において,環境の問題が考察されている.8は3の翻訳者たちを中心にした論文集である.9は『環境思想の系譜』シリーズの第3冊目である.第1部が「環境と倫理」であり,6人の外国人の環境倫理思想家の思想のエッセンスが収められている.10は対動物倫理の諸論考の集成である.11は環境倫理思想の歴史(環境倫理学の成立史)を扱ったものとしては最も広い.表題は,倫理的平等という概念が人間集団間から動物の一部へ,更に全体としての生態系へと拡大していくというナッシュの視点を示しているが,この視点そのものは論議の余地があろう.12はコンピューター・シュミレーションによって,環境問題を中核とする世界問題複合を明らかにした歴史的な意義を有する.13は『成長の限界』後20年目に,世界問題複合を同じコンピューター・モデルを用いてシュミレーションしたものである.著者らは事態はさらに悪化し,人間の経済活動は限界を越えてしまったが,われわれは直面する限界を乗り超えることがまだ可能であるという希望を示す.(樽井,西村)

II(生活と倫理:生命倫理学)

  1. 米本昌平『先端医療革命』(中公新書,1985年)
  2. エンゲルハートほか『バイオエシックスの基礎』(加藤尚武/飯田亘之編,東海大学出版会,1988年)
  3. 岡本直正/馬場一雄/古庄敏行編『医療・医学研究における倫理の問題』(東京医学社,1988年)
  4. 塚崎智/加茂直樹編『生命倫理の現在』(世界思想社,1989年)
  5. 今井道夫/香川知晶編『バイオエシックス入門』(東信堂,1992年)
  6. スピッカー/エンゲルハート編『新しい医療観を求めて』(石渡隆司ほか訳,時空出版 1992年)
  7. エンゲルハート『バイオエシックスの基礎づけ』(加藤尚武/飯田亘之監訳,朝日出版社,1989年)
  8. ビーシャム/チルドレス『生命医学倫理』(永安幸正/立木敦夫監訳,成文堂,1997年)
  9. シンガー『実践の倫理』(山内友三郎/塚崎智監訳,昭和堂,1991年)
  10. 河野友信・河野博臣編『生と死の医療』(朝倉書店,1985年)
  11. アルフォンス・デーケン編『叢書 死への準備教育 第一巻 死を考える』(メヂカルフレンド社,1986年)
  12. エリザベス・キューブラー=ロス『死ぬ瞬間』(川口正吉訳,読売新聞社,1971年)
  13. エリザベス・キューブラー=ロス『死ぬ瞬間の対話』(川口正吉訳,読売新聞社,1975年)
  14. 原義雄/千原明『新版 ホスピス・ケア――看取りの医療への提言』(メヂカルフレンド社,1987年)
  15. 中島修平/中島美智子『希望の医療 ホスピス』(家の光協会,1991年)
  16. 柏木哲夫『生と死を支える――ホスピス・ケアの実践』(朝日新聞社,1987年)
  17. 日本緩和医療学会監修『緩和医療学』(三輪書店,1997年)
  18. 実存思想協会編『死生』(理想社,1998年)

生命倫理学の入門書として勧められるのは1.個別の問題を考える手がかりは,2~6のアンソロジーが与えてくれる.2・6には欧米の,また3・4には日本の研究者の論文が集められている.7はこれまで日本語で読めるもっとも原理的な書物であったが,8の刊行により,ようやくバランスがとれたといえる.8の方が標準的である.9は独自の功利原理に基づく議論である.ターミナル・ケア――この語は次第に「緩和ケア」にとって代わられつつあるが――に関する総論的書物は数多くあるが,10は問題を網羅しており,展望を得るのによい.同書で採り挙げられている問題を個別的に深めるための書物が11以下である.11に所収の巻頭論文「死への準備教育の意義」は,日本におけるデス・エデュケーションの指導的役割を担ってきたデーケンの「死の準備教育総説」というべきものである.緩和ケアの中核をなすものは,まず第一に身体的な痛みのコントロールである.しかし倫理学の立場からは,メンタルなニーズとスピリチュアルなニーズ,及びそれへの対応が問題となるであろう.この問題を考える基礎となるものとして,先ず12・13を挙げておく.12は不治の病を告知された患者の,死に至るまでの心理変化の調査的研究の嚆矢であり,その過程を5段階に分けて記述し図式化したことで有名である.あまりにも有名になりすぎて,これ一冊だけが読んで済まされている傾向がなきにしもあらずだが,続編である13も必ず併読しなければならない.緩和ケアの創始と推進はホスピスにより為されて来た.ホスピス関係文献には外国語文献の邦訳も多いが,ここでは日本における最初の三つのホスピスの設立と運営に中心的役割を果たした人々の著書として,14・15・16を挙げておきたい.より学術的で包括的な書物として17がある.17所収の「スピリチュアル・ケアとQOL」は薦められる.これについては,18所収の「フランクルの医療フィロソフィーとスピリチュアル・ケア」も読んでほしい.(樽井,西村)

III(社会と倫理)

  1. マルクス『経済学批判』(武田隆夫/遠藤湘吉/大内力/加藤俊彦訳,岩波文庫,1956年)
  2. ウェーバー『宗教社会学論選』(大久保久雄/生松敬生訳,みすず書房,1972年)
  3. フロム『自由からの逃走』(日高六郎訳,東京創元社,1951年)
  4. アドルノ/ホルクハイマー『啓蒙の弁証法』(徳永恂訳,岩波書店,1990年)
  5. ハーバーマス『イデオロギーとしての技術と科学』(長谷川宏訳,紀伊国屋書店,1970年)
  6. ポパー『歴史主義の貧困』(久野収/市井三郎訳,中央公論社,1961年)
  7. マンハイム『イデオロギーとユートピア』(高橋徹/徳永恂訳,『世界の名著56 オルテガ マンハイム』中央公論社,1971年,所収)
  8. ブロッホ『希望の原理 第Ⅰ巻第2部』(山下肇ほか訳,白水社,1982年)
  9. ピヒト『ユートピアへの勇気』(河井徳治訳,法政大学出版局,1988年)
  10. ハンス・ヨナス『責任という原理』(加藤尚武監訳,東信堂,2000年)
  11. シュレーダー=フレチェット編『環境の倫理(上)』(晃洋書房,1993年)
  12. グラバー『未来世界の倫理』(飯田隆ほか訳,産業図書,1996年)
  13. ディジョージ『ビジネス・エシックス』(永安/山田訳,明石書店,1995年)
  14. 宮坂純一『現代企業のモラル行動――アメリカのモラル改革運動の批判的検討』(千倉書房,1995年)
  15. エプスタイン『企業倫理と経営社会政策過程』(中村瑞穂ほか訳,文眞堂,1996年)
  16. ビーチャム/ボウイ編『企業倫理学』(全4巻,加藤尚武/梅津光弘/中村瑞穂/小林俊治監訳,晃洋書房,2001年~)
  17. アマルティア・セン『合理的な愚か者――経済学=倫理学的探求』(大庭健/川本隆史訳,勁草書房,1997年)
  18. 塩野谷祐一『価値理念の構造――効用対権利』(東洋経済新報社,1984年)

1・2は,倫理的なものは歴史を動かす力としてどれ程の力を有するか,という問題をめぐる古典的議論.3も同じ問題をナチズム発生過程の分析という形で答えている.フロムはごく一時期フランクフルト社会研究所に所属していたが,所謂「フランクフルト学派」を代表するのはアドルノとホルクハイマーである.両者の共著である4は,人類史的パースペクティヴからナチズムを分析し,野蛮の克服過程としての啓蒙の中から再び野蛮が生ずる様を明らかにする.この二人を批判的に継承するハーバーマスには,5に所収の表題論文から入るのがよい.アドルノと「実証主義論争」を交えた批判的合理主義の代表者ポパーの著作としては6が入りやすい.批判の対象にされている「歴史主義」とは「歴史法則主義」のことである.7・8・9は,ユートピア思想の意義を考える,という視点から挙げた.特に9では,1960年代の未来学と1970年代前半のローマ・クラブによる未来研究の両者を視野に収めた上で,ユートピアの意義が再考されている.10は「自然と倫理」の項に入れてよいものである.「社会と倫理」の項に入れたのは,第一に,『責任という原理』という題名が8に対置されているからである.しかしヨナス自身の「未来倫理学」の希望観念にも問題点がある.第二に,未来倫理学は社会科学的とも言えるからである.したがって11のうち,「世代間倫理」は「社会と倫理」に入る.12も同様の理由で「社会と倫理」に入れた.(西村)

13以下はビジネス・エシックス関係である.13は,著者のディジョージはアメリカにおけるビジネス倫理学の草分け的存在であり,21章におよぶ本書は理論的な問題から各論の課題事項にいたるまで,網羅的に記述されている.典型的なアメリカの概説用教科書である.14は,日本の経営学者の手になるビジネス倫理学関係の文献の中では一番信頼のおける文献であり,ビジネス倫理学の歴史的普及過程をたどるうえでも有用.15の経営社会政策過程という概念はエプスタインの創意になるもので,著者は,企業倫理を社会と企業とのダイナミックな相関関係,意思決定過程として捉えている.企業倫理を社会哲学や経営実務とつなげる視点を提供する,示唆に富んだ論文集である.16は,ビジネス倫理学の最も基本的な論文,ケース,判例などを,課題事項別に網羅したリーディングス.入門書であると同時に,本格的なビジネス倫理学研究のために必要な専門常識を得ることができる.論文は,その殆どが哲学・倫理学研究者によって書かれたものであり,アメリカでは第5版まで出ている,定評のある教科書である.17は,経済学における功利主義的諸前提を倫理学的に吟味しなおし,乗り越えようとする,アマルティア・センの論文集である.経済倫理学にあたる著作だが,ビジネス倫理学を経済理論から考えなおす場合には有用である.18は新古典派経済理論の価値前提を,ロールズを中心とした倫理学説の検討を通じて,批判的に捉え直そうとした,日本の学者による経済倫理学書.(海津)

IV(文化と倫理)

  1. 平井正編『文化と文明の哲学』(学文社,1976年)
  2. シュヴァイツァー『文化の頽廃と再建』(『シュヴァイツァー著作集6』白水社,1957年)
  3. シュヴァイツァー『文化と倫理』(『シュヴァイツァー著作集7』白水社,1957年)
  4. カッシーラー『人間』(宮城音弥訳,岩波文庫,1997年)
  5. フロイト『文化論』(吉田正巳訳,『フロイト選集』日本教文社,1970年)
  6. マルクーゼ『エロス的文明』(南博訳,紀伊国屋書店,1981年)
  7. 小泉仰ほか編『比較思想のすすめ』(ミネルヴァ書房,1979年)
  8. ムーア編『東洋思想と西洋哲学』(三枝充悳訳,理想社,1974年)

1はドイツとフランスにおける「文化」と「文明」の概念の歴史を知るのに便利.2は著者による文化哲学の第1部として,3は第2部として書かれた.4は「象徴を操るものとしての人間」という観点から文化を論じたもの.6は,精神分析の立場からの文化,文明論である.比較文化・比較思想への入門として,7・8を挙げておく.(谷・西村)

5 哲学的人間学

  1. シェーラー『哲学的世界観』(『シェーラー著作集13』白水社,1977年,所収)
  2. シェーラー『宇宙における人間の地位』(『シェーラー著作集13』白水社,1977年,所収)
  3. プレスナー『人間の条件を求めて』(谷口茂訳,思索社,1985年)
  4. ゲーレン『人間――その本性および世界における位置』(平野具男訳,法政大学出版局,1985年)
  5. ゲーレン『人間の原型と現代の文化』(池井望訳,法政大学出版局,1987年)
  6. ポルトマン『人間はどこまで動物か』(高木正孝訳,岩波新書,1961年)
  7. ロータッカー『人間学のすすめ』(谷口茂訳,思索社,1978年)
  8. ラントマン『哲学的人間学』(谷口茂訳,思索社,1991年)
  9. 三木清『哲学的人間学』(『三木清全集18』岩波書店,1968年)
  10. ガーダマー/フォーグラー編『講座 現代の人間学7 哲学的人間学』(高橋昭二ほか訳,白水社,1979年)
  11. レペニース/ノルテ『人間学批判』(小林澄栄訳,法政大学出版局,1991年)
  12. フィンク『人間存在の根本現象』(千田義光訳,晢書房,1982年)

1から8までは今世紀ヨーロッパにおける哲学的人間学の代表的文献の邦訳.9はわが国における古典的労作.10・11・12はこの分野における近年の新しい展開と成果を示す諸論考を収めた論集.(小松・樽井)

6 その他

1)日本倫理思想

  1. 相良亨編『日本思想史入門』(ぺりかん社,1984年)
  2. 相良亨『日本人の心』(東京大学出版会,1984年)
  3. 相良亨ほか編『講座 日本思想』(全5巻,東京大学出版会,1983年)
  4. 『日本思想大系』(全67巻,岩波書店)
  5. 『日本の名著』(全50巻,中央公論社)
  6. 西田幾多郎『善の研究』岩波文庫 1950年
  7. 和辻哲郎『日本倫理思想史』(上・下,『和辻哲郎全集12・13』岩波書店,1962年)
  8. 佐藤正英『歎異抄論註』(青土社,1989年)
  9. 黒田/古橋/佐藤編『御伽草子』(ぺりかん社,1990年)

1は教科書・参考書.2は簡略な概論.3は自然,知性,秩序,時間,美の各主題をめぐる論考.4・5は,基本的な資料集.6・7は,古典的な研究書.8・9は,最近の個別的な主題をめぐる研究書.(佐藤)

2)東洋倫理思想

  1. 森三樹三郎『中国思想史』(上・下,第三文明社レグルス文庫,1978年)
  2. 桑原隲蔵『中国の孝道』(講談社学術文庫,1977年:原版1927年)
  3. 津田左右吉『儒教の実践道徳』(『津田左右吉全集18』岩波書店,1988年:原版1932年)
  4. 安田二郎『中国近世思想研究』(筑摩書房,1976年:原版1948年)
  5. ジョセフ・ニーダム『中国の科学と文明2・3 思想史(上・下)』(新版,思索社,1991年:英文原書1956年)
  6. 戸川/蜂屋/溝口『儒教史』<世界宗教史叢書10>(山川出版社,1987年)

1は推薦できる入門書.2・3は倫理現象の実際を知るのによく,4は教理の哲学的分析に優れ,いずれとも定評ある名著.5は科学史家の手になる刺激的な思想史.6は儒教に限定しているが,最新の成果をもりこんだ意欲作.(土田)

3)キリスト教概論

  1. 『聖書 新共同訳 旧約聖書読編つき』(日本聖書協会,1987年)
  2. 『聖書 註解・索引・チューン式引照付』(いのちのことば社,1981年)
  3. 『新約聖書 フランシスコ会聖書研究所訳注』(中央出版社,1980年)
  4. 佐古純一郎『聖書をどう読むか』(大和出版,1978年)
  5. 百瀬文晃『イエス・キリストを学ぶ』(中央出版社,1986年)
  6. 金子晴勇『キリスト教思想史入門』(日本基督教団出版局,1983年)
  7. デュロゼル『カトリックの歴史』(大岩誠/岡田徳一訳,白水社文庫クセジュ,1967年)
  8. レオナール『プロテスタントの歴史』(渡辺信夫訳,白水社文庫クセジュ,1968年)
  9. クレマン『東方正教会』(冷牟田修二/白石治朗訳,白水社文庫クセジュ,1979年)
  10. 森安達也『キリスト教史Ⅲ 東方キリスト教』(山川出版社,1987年)
  11. 石田友雄『ユダヤ教史』(山川出版社,1980年)

聖書はまず旧約と新約とが一冊になっているものが必要である.訳文は「新共同訳」を第一に挙げるのが当然であろう(1).聖書は決して読みやすい書物とはいえないので,読者のための手引きが付録としてついていると便利である.「新共同訳」にも付録付きのものがあるが,最も詳しい付録が付いているのがこの2である.但し,かなり大きい.新約聖書だけならば,3の「フランシスコ会聖書研究所訳注」のものもすすめられる.「注」が詳しく親切である.聖書の思想内容をイスラエルの歴史に即して叙述した入門書としては4がよい.5は,イエスがキリストとして信仰されるようになったプロセスを再構成,追体験するアプローチをとっており,最も推奨できる本である.6は新約聖書から現代神学までを扱った通史である.西方教会のカトリックとプロテスタントの歴史を簡単に知るには7・8,東方教会の歴史及び教理的概要を簡単に知るには9・10が便利である.11はキリスト教の母体でもあり,キリスト教成立後もキリスト教化したヨーロッパの中で生き続けたユダヤ教とはどのようなものかを知るのに最適の一冊.いわゆる「ユダヤ人問題」の理解は,西洋倫理思想の研究にも大切である.特に,ナチスの「ユダヤ人絶滅作戦」は,現代倫理学も避けて通れないものであるが,それをユダヤ人の歴史の中に位置づけて理解するには11が良い.(西村,谷〔東方教会〕)

4)仏教学概論

  1. 『ブッダのことば』(中村元訳,岩波文庫,1958年)
  2. 『ブッダの真理のことば・感興のことば』(中村元訳,岩波文庫,1978年)
  3. 渡辺照宏『仏教』(岩波新書,1974年)
  4. 中村元/三枝充悳『バウッダ 仏教』(小学館,1987年)
  5. 山口益ほか『仏教学序説』(平楽寺書店,1981年)
  6. 中村元『原始仏教の生活倫理』(『中村元選集15』春秋社)
  7. 『仏教の思想』(全12巻,角川書店,1967~69年)

キリスト教の勉強が何はともあれ「イエスの言葉」から出発しなければならないのと同様,仏教の勉強も先ずは「ブッダの言葉」からであり,1と2からである.3は仏陀の生涯と教説を中心とした入門書.4は初期教典と大乗教典の概説書.5は仏教全体に関して平明な解説がされている.6は特に倫理に焦点を絞ったものである.7は仏教思想の多様な側面を概略的に展望するに手頃である.(谷,西村)

7 講座・叢書・論集

  1. 『岩波講座 哲学』(岩波書店,1968~69年)
  2. 『新岩波講座 哲学』(岩波書店,1985~86年)
  3. 『岩波講座 転換期における人間』(岩波書店,1989年)
  4. 『日本倫理学会論集』(理想社,1966~75年;以文社,1976~85年;慶應通信,1986~95年;開成出版,1996年)
  5. 『実存思想論集』(以文社,1986~93年;理想社,1994年~)

哲学・倫理学の個別テーマを考察する際に,手がかりが見いだされるだろう.(全員)

8 事典

  1. 『新倫理学事典』(弘文堂,1970年)
  2. 『実存主義事典』(東京堂出版,1964年)
  3. 『コンサイス20世紀思想事典 第2版』(三省堂,1997年)
  4. 『西洋思想大事典』(全5巻,平凡社,1990年)
  5. 『岩波 哲学・思想事典』(岩波書店,1997年)
  6. 『倫理思想史辞典』(山川出版社,1997年)

1は東西の倫理思想の概観と小項目の説明からなる.2は実存主義の思想家たちとその諸問題,3は前世紀末以降の思想・科学上のキーワードを解説している.4はDictionary of the History of Ideas, New York, 1968-74の邦訳であり,邦語で読める初めての大事典である.5は久々の哲学中辞典である.6も1以来久々の事典であるが,1に比べるとコンパクトであり,小項目主義である.したがって,基本用語についての一応の知識を得るのに役立つだけである.(全員)

【補遺】

1 倫理学概論

  1. 新田孝彦『入門講義 倫理学の視座』(世界思想社,2000年)
  2. ノーマン『道徳の哲学者たち――倫理学入門』(塚崎/石崎/樫監訳,ナカニシヤ出版,2001年)
  3. 永井均『倫理とは何か』(産業図書,2003年)
  4. 小松光彦/樽井正義/谷寿美編『倫理学案内――理論と課題』(慶應義塾大学出版会,2006年)

西洋哲学倫理学史(倫理学に関するもの)

3 倫理学の基礎

  1. アレント『人間の条件』(志水速雄訳,ちくま学芸文庫,1994年)
  2. ハーバーマス『討議倫理』(清水/朝倉訳,法政大学出版局,2005年)
  3. フーコー『監獄の誕生――監視と処罰』(田村俶訳,新潮社,1977年)
  4. レヴィナス『全体性と無限』(合田正人訳,国文社,1989年)
  5. レヴィナス『存在の彼方へ』(合田正人訳,講談社学術文庫,1999年)
  6. ロールズ『正議論』(矢島鈞次監訳,紀伊国屋書店,1979年)
  7. ロールズ『公正としての正義 再説』(田中/亀本/平井訳,岩波書店,2004年)
  8. ヘア『道徳的に考えること』(内井/山内監訳,勁草書房,1994年)

4 倫理学の課題

  1. 加藤尚武編『環境と倫理』(新版,有斐閣,2005年)
  2. 赤林朗編『入門・医療倫理Ⅰ』(勁草書房,2005年)
  3. 梅津光弘『ビジネスの倫理学』(丸善,2002年)

7 講座・叢書・論集

  1. 『叢書 倫理学のフロンティア』(ナカニシヤ出版,1998年~)
  2. 『現代社会の倫理を考える』(丸善,2002年~)
  3. 『岩波 応用倫理学講義』(岩波書店,2004~05年)

8 事典